コースも終わりに近づき、クラスメイトは帰国便の調整に忙しいころ、私はコーチよりさらに南下したトリバンドラムという都市にある、IDEAL AYURVEDIC RESORT という伝統医学・アーユルヴェーダに特化したホテルに移動する準備をしていました。ホテルに連絡すると、宿泊は可能ということで、安心して、コースの修了式を終えた後、このホテルに向かいました。
空港に到着すると、依頼していた送迎が来ていません。待てど暮らせど迎えは来ず、最初はうっとおしいと思った客待ちのタクシーのおじさんたちでしたが、親切にも心配してホテルに電話をしてくれました。「OK, このタクシーに乗って!」と送り出され、あれよあれよと無事ホテルに到着しました。
実はこの日、インド政府の要請で、ケララ州の宿泊施設も旅行者の受け入れが禁止となっていたのです。一度もWIFIにつなげることなく移動していた私は、度重なるホテルからのキャンセル依頼の電話とメールを完全無視し、夜遅くに突然現れたのでした。奇跡の滑り込みセーフで(仕方なく)受け入れてもらえたのでした。
なにはともあれ、この日からいろんな意味で夢のような滞在が始まりました。すでにほとんどのゲストは帰国しており、滞在中、ゲストは他に4名しかおらず、嘘のように静かなリゾートでした。旅行者は外出禁止だったのですが、お店が並ぶ海へと続く表通りも人通りはなく、たまに通る車の音が響きわたっていました。太陽が輝き、明るく陽気な雰囲気ですが、ガラーンとしたホテル内の静けさが対照的でした。
レストラン トリートメントルーム プールサイド
ここでは、ドクターとのカウンセリングにより、薬草を煮出したオイルで体に溜まった毒素を溶かしだすマッサージや、頭に温めたオイルを流し神経を鎮静するシロダーラ、その他症状に合わせて特別な治療を受けます。2ヶ月の旅の最後は、自分のメンテナンスをすることを決めていました。
完全菜食の食事、ヨガクラス、1 日2時間程度のトリートメント、アーユルヴェーダのお薬が提供されます。朝、昼、晩、やさしい味の野菜料理が並びます。これまでは食事に関して非常に苦労したのですが、ここではやっと安心して食べることができました。毎回食べすぎなのですが、それでも不思議とおなかがすくのが菜食のよさ。
Breakfast LUNCH DINNER
南インドのアーユルヴェーダでは、まずは体の毒をだすために、最初の段階で毎朝ギー(バターの上澄み)を飲みます。これは今でも思い出すだけで吐き気がするほどつらかったのですが、ドクターによると、身体中に溜まった毒素はオイルによってのみ、溶かし出すことができる、とのこと。特にここで飲むメディカルギーは非常に強い薬なのだそうです。
どんなにまずくても決められた3日間は飲む決意を致しました。とても飲みづらいので、カルダモンをかじったり、口直しのジンジャーティーもセットです。薬とはいえ、油をコップで飲むとは… すぐに気分が悪く、頭痛がしてきます。こんなにつらく苦しいのに、本当に体によいのでしょうか?と聞くと、「それが普通。」とのこと。インド式デトックスは決して楽ではありません。
ギーを飲む期間は食事も消化のよいものに制限されます。出てきたものはライススープ(米を煮ただけ)、きゅうりとトマトの薄切り、のみ。味もなく食べる楽しみはありません。日ごとにギーの量が増し、このつまらない食事が続き、ギーの苦しみよりも食事の不満を訴えたところ、ドクターよりおいしい食事が許可されました。
が、食欲があることで、さらにもう 1 日、さらに増量のギーを飲むことになりました。私は気持ち悪さを解消するため、おいしいものが食べたくなっていたのですが、普通は頭痛や胃の重さで寝込むひとも多いのだとか。それにしてもギーはもう限界で、この日を最後にしてもらいました。
ギーセット つまらない食事 ちょっとおいしくなった食事
トリートメントタイムには、体にも頭にも、惜しげもなく大量のオイルが流れ、とにかく毎日、内から外からオイルまみれです。目にもギーを注がれました。最初のデトックスが終わると、数日後には、温かいオイルが滝のごとく体中に注がれる、という非常に贅沢な治療を受けました。
暖かいオイルが全身の表面に流れ溶けてゆく私はチョコレートフォンデュ..♪ 芯からじんわりと汗をかき、毒素も緊張も溶けてゆくような至福のひととき。薬草を煮出した茶色いオイルですが、ベースとなるオイルはココナッツオイルとのこと。空を仰げばココナツだらけのこの土地がなせる業です。
気温は朝から晩までほぼずっと30度。トリートメント終了後も一時間はシャワーは控えるように言われ、部屋でギトギトのままボーっとする間も汗が流れ続けます。時間になったらシャワーを浴びて、食事タイム。外出も禁止されているため、空いた時間はただただ、瞑想とヨガに耽る日々でした。
そんな中、世の中はどんどん変わっていき、私の帰国便であるシンガポール航空も、空港閉鎖のためキャンセルとなりました。代わりの便を予約しようにも、どんどん空港が閉鎖されていくので、頼みの綱は日本への直行便しかありません。デリー発成田行きのJALがあることを確認したものの、欠便が多く、帰りのタイミングを見計らっていました。まさに「一寸先は闇」となり、下手に動くこともできない状況でした。
そしてある日突然、インド全土で一斉外出禁止令がでました。セラピストが出勤できないということで、一日トリートメントがお休みになりました。食事はいつも通り提供され、のんびりと過ごしたのですが、今まで以上に静かな一日でした。ここで不安に支配されてはもったいないと思い、平和な気持ちで過ごそうと、有り余る時間をヨガと瞑想で埋め尽くすように、静かな時間と空間を満喫しました。
不穏なニュースが続く日々 ヨガホールもひとりじめ 見渡す限りのココナツツリー