「インドに呼ばれる」という言葉をよく聞きますが、「行くべき時期は、インドが決める」のだとか。
2011年、ヨガを学ぶため、初めてインドを訪れ、帰国直後はもう二度と行かない!と思ったはずが、ヨガ、瞑想、アーユルヴェーダ、スパイス&ハーブ、・・ そんな響きに無性に惹かれ、なぜかますます気になる国になりました。またいつか行きたいと願い、かれこれ9年。インドが決めた私の「行くべき時期」は、2020年、世界を変える歴史的パンデミックの直前でした。
旅の目的は、ヨガセラピーを学ぶこと。インドに足を踏み入れたからには、ブッダが生きた土地に行く!オーロヴィルという世界最大のスピリチュアルコミュニティを見に行く!発祥の地といわれるケララのアーユルヴェーダを受ける! スピリチュアル&シャンティ(平和)なエネルギーに満ちた不思議な一人旅をしてきました。
振り返れば、世界中で人の動きが封じられるゆく流れの中で、行く先々でギリギリセーフで迎え入れられ、最後は完全封鎖となる直前につまみ出されたような、奇跡の旅でした。
2021年、自由に旅することが夢のような現状ですが、旅の様子をお伝えすることで、インドに行った気分になったり、いつか行ってみたいと思うきっかけになったら嬉しいと思います。
聖地ブッダガヤでヴィパッサナ瞑想
2020年1月、中国のどこかで感染病が流行りだした、というニュースを尻目に旅支度を済ませ、インドに向けて出発しました。旅の始まりはブッダガヤ。
ブッダガヤとは、人間シッダルダが長い修行ののち、宇宙の真理を悟り、目覚めた人・ブッダとなった土地です。この町にそびえるマハボディ寺院は仏教の最高聖地であり、世界的なパワースポットとして知られます。
ブッダが悟りに至った瞑想法がヴィパッサナー瞑想です。ブッダは、身分や宗教を超えて、誰もが皆、平和な心で生きるため、この瞑想法と宇宙の真理を人々に説いてまわりました。その教えは現代にも伝わり、世界中で学ぶことができます。私はこのコースのおかげで、宗教ではないブッダの教えを知り、実在した偉大な師として尊敬するようになりました。
「ヴィパッサナー瞑想」を行う指導者はたくさんいますが、サティア・ナラヤン・ゴエンカ氏によるヴィパッサナー瞑想センターは世界中に広がりました。指導はゴエンカ氏によるレコーディングで行われるため、世界の言語に訳され、どこでも誰でも、同じようブッダが説いた瞑想を学ぶことができます。新しい生徒は10日間センターに滞在し、人との接触を避け、ひたすら自分に向き合い瞑想の修行を行います。運営は完全に寄付と古い生徒の奉仕によって賄われています。
初めてのコースを京都で受けて衝撃を受けて以来、その時に味わった感覚が忘れられず、その後も何度か生徒として、奉仕者として、コースに参加しました。その度に違う学びがあり、心が浄化され、今度こそは毎日瞑想を続けようと心に誓うのですが、多忙な日常生活に流され、元に戻ってしまうのでした。
ある時、「小説ブッダ いにしえの道、白い雲」という本に出会いました。ベトナム出身の禅僧、ティックナットハン師により、ブッダの生涯を描いた小説で、人間として生まれ育った生い立ちや、取り巻く人々の人間らしさ、悟りを開いて人々を救い、魅了していく様子が生き生きと描かれています。ブッダは仏像ではなく、実在の人物だったと親近感が湧き、ブッダに会いに行きたくなります。
ふとヴィパッサナー瞑想のことを思い出し、何気なく調べると、ちょうどブッダガヤにてタイミングよく特別コースが行われることを知り、参加を即決したのでした。そしてブッダガヤには、素晴らしいゲストハウスがあることも、躊躇なく決めた理由でもありました。
セーナムラヨガアシュラム / プレマメッタスクール
ガヤ空港に到着すると、小さな空港には各国からたくさんの僧侶や尼僧が到着していました。穏やかな午後の日差しと僧たちに溢れる独特の雰囲気の中、久々のインドの旅の始まりに心を弾ませながら、お世話になるゲストハウスのお迎えでブッダガヤの町へと向かいました。
まず到着したのはブッダガヤにあるゲストハウス。以前、ヨガのティーチャートレーニングでお世話になった日本人のヨガの先生(ゆうこさん)がインド人男性と結婚されて、小学校とゲストハウスを営んでいます。セーナムラ・ヨガアシュラムという素敵なゲストハウスの横に、その小学校・プレマメッタスクールがあります。
残念ながら、創始者のアヌープさんとゆうこさんは日本に帰国中で会うことはできませんでしたが、アヌープさんの弟さんや甥っ子さんたちが温かく迎えてくれて、このゲストハウスや学校ができるまでのお話を教えてくださいました。以下、伺ったお話をご紹介します。
インドで一番貧しい州と言われるビハール州にあるプレマメッタスクールは、村の貧しい子供達のために全て無償で運営されています。親がいない子供たちも、数人が学校の寮に住んで学んでいます。ゲストハウスを運営し、運営費以外は全て学校のために当て、あとは世界中から寄せられた寄付で成り立っています。
同じような学校が、この地域にはいくつかありましたが、表向き無償というだけで、寄付を集めて私服を肥やすところも多く、最初は同じように思われ信用されないこともあったそうです。そして軌道にのると、今度は嫉妬から学校を潰そうとする動きがあり、学校のコンピューターが盗まれたり、たくさんの苦労が次々に押し寄せました。
自分より貧乏で身分の低い人が成功したり、教育を受けて正しいことを知っていくのは、自分の地位が侵される恐怖からくるもので、何が何でも阻止しようとする動きがあるようです。
アヌープさんは子供の頃は貧しく、道で物乞いをして生活していましたが、ある時台湾の僧侶に自分の食べ物をわけたことから見初められ、その僧侶の勧めでネパールに一緒に行き、修行を始めました。そこで英語や教育を受けて育ちました。やがて修行を続けるよりも、自分も村の貧しい子供達に教育を受けさせたいと思い、自分の村に戻りました。家庭は変わらず貧乏でしたが、観光の仕事をして、自分の夢を話しているうちに少しづつ助けてくれる人が現れ、ついに学校を創立しました。とはいえ、仕切りの壁だけの屋外の学校だったそうです。このようなお話を教えてくださった弟さんも、この学校で教育を受け、今では一緒に運営しています。
セーナ村=スジャータ村 手作りカフェ 広くてきれいなヨガスタジオ
初日のワクワク
宿に到着し、レセプションで各種手続きを行いながら、ロビーには大きなバックパックが置いてあったり、出入りする外国人の姿がちらほら。旅のワクワクとドキドキが高まります。バンコクでのトランジット7時間を経てようやっとたどり着いた安堵もあり、部屋に案内されると、きれいに整った空間と窓から見渡す景色に、感激もひとしおでした。ヨガホールもあり、庭には小さなカフェもあります。翌日から9日間、瞑想センターに滞在するのですが、その後またここに戻って来るのが早くも楽しみになりました。
ゆうこさんから、コースを終えた日本人の男性が泊まっているから、話を聞いておくといいよ、と聞いていました。部屋で荷物を整え、下のロビーに行くと、日本人らしき男性を発見!初日から、外国でなぜかとっても安心する日本人の存在。ここぞとばかりに話しかけると、気さくに話してくださいました。
マシャさん(仮名)によると、夜はかなり冷えるので、行く途中のチベッタンマーケットで厚手の毛布を買って最後はダーナ(寄付)にするとよいこと、トイレットペーパーなど生活に必要なものはもらえること、コース修了後にブッダのゆかりの地を巡るツアーを開催してくれる人がいるから、それは絶対に参加したほうがよいこと、街中のめちゃくちゃ美味しいヴィーガンカフェがあること、などなど、楽しく教えてくださり、一抹の不安は一気に吹き飛びました。これからコースで知り合ったお友達と一緒にそのおすすめカフェにご飯を食べに行くのだと、楽しそうに送迎バイクでお出かけしていくのを見送りました。
夕飯を食べにこちらの宿のカフェに行くと、小さなテーブルに素敵なゲストたちが座っていました。ドイツからのカップルと、アルゼンチンからの一人旅の女性。出会った途端に親しげな笑顔で同じテーブルに受け入れてくれました。それぞれ、3〜6ヶ月ほどの旅の途中とのことで、お互いのことを話しているうち、偶然、みんながヴィパッサナ瞑想者であることに気がつきました。
ドイツのカップルはギリシャで、アルゼンチンの女性はネパールで、10日間のコースを修了し、私は明日からここブッダガヤでコースが始まる。話は自然と盛り上がり、旅のこと、仕事のこと、今後の旅の予定、旅の後の展望などを語り合いました。季節は冬、夜は冷え冷えとしており、屋外のカフェで凍えながらも、楽しいディナーを終えました。
明日は午後から瞑想センターに向かうため、朝はゆっくり。普段からすごく寒がりの私ですが、部屋にもチベットの高級毛布が用意されており、これだけで眠れるものか・・と、噂のチベット毛布にくるまると、あっけなく意識は吹っ飛び、目覚めたのはまだ薄暗い朝でした。
一瞬、ここがどこなのか、何時なのか、感覚を失う。疲れ切って眠りに落ちた後に訪れる不思議な感覚。狐につままれた気分で窓の外を見ると、朝霧の中を農作物を頭に乗せて静かに歩く村人の姿。原始的な風景に、ここはインド、今はまだ寒い早朝、ベッドに戻り、ぼーっと旅の始まりをジワジワと実感する贅沢な時間・・・
荷物を頭で運ぶ村人 朝食♡ 朝の風景 生まれてまもない子犬たち。 なにかが欲しいママさま。
だんだん朝日が昇り、明るく照らされる村の風景を眺めながら、準備を済ませて外に向かう。まだ目も見えない子犬たちと戯れる幸せなひと時を過ごして、カフェの様子を伺うと、シェフは準備中。話しかけてもことごとくシカトで、どうしてよいやら・・。
仕方なくまた子犬と遊び時間を持て余していると、シェフがおそらく朝食を運んで戻ってきました。素通りするシェフにめげずに話しかけると、やっとなんとかオーダーを聞いてくれました。後から聞いたところ、彼は最近この仕事を始めたばかりの村の人で、英語も話せないので、外国人にはとてもシャイなのだとか。
気を取り直して、カフェのテーブルでのんびりしていると、だんだん田園風景が明るく輝いていきます。母犬が足元に遊びに来たり、朝の風景に癒されているうちに、待望の朝食が運ばれてきました。お礼を言うとニコリとしてくれ、無表情からの笑顔が最高に輝いて見えました。マサラチャイとトーストとマサラオムレツ、おいしかったです!
朝食を終えて、部屋に戻り準備をしていると、突然、ドッカーン!!と耳をつんざく爆音!・・インドのダンスミュージック?何事かと窓の外を見ると、大勢の子供達がノリノリで踊っている・・!!しかし、耳の中で音割れするような爆音。とりあえず、慌てて耳栓を取り出し装着するものの、耳を塞いでも聞こえる逃れられない音。日本で俗に言う「爆音」とは、レベルが違います。爆音で踊る小学生、インドって面白い・・!? この時はまだ、そんな程度に捉えていたのでした。
さて、待ちに待った瞑想コースの始まる日。センターまで車で送ってもらいました。マシャさんのアドヴァイスの通り、チベッタンマーケットに寄り、毛布を選定していると、送ってくれたスタッフがまるで兄のように「色がいいからこれ!」と決めてくれました。昨日からお世話になっており、勝手に親近感&ホーム感で、緊張することもなく会場まで送って頂きました。
案外すぐに到着し、門の前にて、迎えに来るから連絡してね、とこれまた兄か父かのように送り出され、しばしのお別れ。ついに、憧れの瞑想センター”Dhamma Bodhi“に入場です!